兵主神は中国の戦神だった
壱岐は神々の島と呼ばれている。それは神社庁登録の神社が150カ所以上島内に鎮座しているからである。
なぜそのような数の神社が存在するのかは別の話として、壱岐東部の芦辺町に国内でも珍しい神様を奉る神社がある。
その名を兵主神社(ひょうずじんじゃ)と言う。
兵主神社は日本全国に19社あり、多くの神社は大己貴命(おおなむち)※別名「大国主。スサノオの六世の孫にあたる」を祀っている。壱岐の神社のご祭神は素盞嗚尊、大己貴神、事代主神の三神である。
兵主は元々、中国の歴史書「史記」・「封禅書」に登場する戦いの神様で「蚩尤(しゆう)」と呼ばれた。蚩尤は獣神で牛の頭と鳥の蹄を持つと異形の姿で登場する。
余談だが、漫画「キングダム」に登場する猛者で女武将の「羌瘣(きょうかい)」は蚩尤の一氏族という設定だ。
古文書には蚩尤は戦の天才であり、斧・楯・弓矢など優れた武器(兵器)を発明したとある。これが兵主の由来となった可能性がある。
蚩尤神は日本の古墳時代に国内に入ってきた。伝承したのは朝鮮半島の新羅から渡来豪族として日本に渡ってきた秦氏といわれている。
兵主は読みを「ひょうず」や「ひょうす」と呼ばれる。九州の佐賀や宮崎では「ひょうすべ(兵主部)」は河童の事を指すが、これは同義であると見て間違いないだろう。
中国から入ってきた蚩尤が兵主神となり、そして日本では河童に変わったのではないかと考えると面白い。
壱岐の兵主神社のご祭神がなぜ、兵主神ではなく素盞嗚尊(スサノオノミコト)であるかは分からないが、スサノオと兵主神との類似は多い。共に戦神であることと、別名・牛頭天王とも呼ばれ牛の角が生えているという逸話がある。
先に述べたが蚩尤も牛頭であり、こうした類似点から混合されてしまっている可能性もあると推論できる。
戦国時代は軍神にあやかって、戦の前には兵主神社で戦勝祈願したこともわかっている。
社名:兵主神社