壱岐にまつわる話

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長者原の竜伝説

壱岐島の最西端に長者原という岬がある。岬には長者原遺跡や左京鼻、はらほげ地蔵など多数の名所がある観光地だ。

 

ここに竜伝説がひとつある。

 

その昔、長者原に住む夫婦がいた。竜王への信仰心厚く、門松を竜宮に奉献していると竜宮の使いが現れ、竜宮へ招待された。

 

夫婦は承諾して海辺に行くと、海が割れ竜宮に続く道が現れた。竜宮に向かう道すがら、使いの者は「もし竜王より何でも好きな宝物を賜ることになれば、禿童(ハギワラ)を望むべし」と助言をもらい、竜宮にたどり着いた。

 

竜王は夫婦に「汝我を信じ、松竹年縄を手向くる事年あり。其誠心を報せんがため、今汝を呼びしなり。」と褒め称え、何でも好きな宝を授けると伝えた。

 

夫婦は使いの者に言われた通り「禿童」を所望すると、竜王はこれに禿童は竜宮でも一、二の宝物であるが与えることにした。

 

こうして禿童を連れ家に戻った夫婦であったが、不思議なことが次々と起こる。

 

禿童が自分の頭をなで、住居と大きな蔵を欲しいと言えば目の前に家と蔵が現れ、金銀など宝が欲しいと言えば目の前に現れ、若さが欲しいと言えば夫婦はたちまち28歳の若さに変わった。

 

喜ぶ夫婦であったが、禿童はこれらの見返りとして「雨の日で草履を履いてはだめ」「夫婦の交わりを持ってはだめ」と、二つの禁忌事項を定めた。

 

せっかく姿若く、立派な家に住むことができた夫婦であったが、戒め事が仇となり楽しむことができない。夫婦は禿童を強引に竜宮に返してしまったのだ。

 

するとたちまち夫婦の家は無くなり、宝は消えてしまった。姿もも本来の老いた年齢に戻ると、ほどなくして二人とも亡くなってしまったそうだ。

 

これが、長者原の竜伝説である。

 

欲望に目がくらんだ人間に対する啓もう的な話であるとともに、全国的に有名な浦島伝説に似通った箇所がある。

 

 禿童は他の読み方で「かむろ」とも読める。全国的にはこちらの読みのほうが有名で、古くは平の清盛が平安時代に町に放ったとされる少年スパイであった。禿(かむろ)とは前髪をパッツリ揃える、いわゆる「おかっぱヘアー」の事だ。

 

また禿というと本来は遊女見習いの少女のことを指すが、禿の髪型をした少年を禿童とも呼んだ。江戸時代になると、「禿童」が歳を取った大妖怪「大禿(おおかむろ)」なども登場する。

 

この大禿、歳は700を過ぎているが頭は禿ヘアーで、歯がボロボロな年老いた姿をしている。また大禿は男女選ばず性交して長寿を得たといわれる由来もある。

 

要は数多くの性向により長寿を得られた仙人や神様のような存在である。 

 

この「長寿」と「性交」の二つのワードは長者原の竜伝説と通ずるところであるが、関係性は定かではない。

 

長者原崎の海辺には2人の墓が今も残っている。